【栞録】イノセント・デイズ(早見和真)|夕闇にたゆたう桜のはなびら

栞録

作品情報

イノセント・デイズ
著者:早見和真
出版社:新潮社
刊行年:2014年
ジャンル:サスペンス小説

物語温度:夕闇に溶け、光に抗いながら流されていく

※本記事は、物語の核心に触れない範囲で内容に言及しています。まっさらな状態で物語と出会いたい方は、ご注意ください。

章序

一人の少女の人生が、静かに崩れていく物語がある。

未来に希望がなく、生きる気力さえ失くした時。
人は抗うことをやめてしまうのだろうか。

裏切られてもなお信じ、少女は愛しい人のために生きていく。
必死にもがき苦しみ、幸せのためにただ突き進む。

はたから見れば滑稽に映るその姿も、本人にとっては、ただ必死なだけのこと。

いくつもの人生が交錯し、少女の命は形作られていく。
最後に残ったものは、本物の幸せなのか。

それとも、誰かが似せて作ったただのまがい物なのか

けれど少女にとっては、もうそんなことさえどうでもいいのかもしれない。

物語に触れて

夕暮れの中に一人取り残されたような、静かな寂しさがあった。
それはページを進めても払拭されることはなく、むしろ物語が進展するにつれ、ゆっくりと胸の奥へ染み込んでいった。

学生時代の空気が、ふいに胸の奥によみがえる。
楽しかった時間も含めて、懐かしさとも言い切れない、どこか苦い感覚。
解放されたいけどされたくない、そんなどっちつかずの心境が私の中で呼応する。
没入するほどに体はわずかに緊張し、頭の奥が静かに熱を帯びていくようだった。

描かれるのは、ある少女の一生。
けれどそこにあるのは、あまりにも重い現実だった。
読み進めながら、何度も思った。
もう、これ以上はやめてほしい。
どうか彼女に救いを。

積み重なっていくやるせなさの中で、
ふと差し込む光は、驚くほどまぶしかった。

物語の後半に差しかかるころには、
それまでの重さが嘘のように、文字が静かに頭へ流れ込んでくる。
そして物語は、静かにクライマックスへと向かっていく。

胸の奥に留まった一文

「え、変装?」
この世に自分だけ取り残されてしまったかのような、不思議な孤独感に身を包まれる。

※印象に残った理由は記載しておりません。
 ぜひ実際に読んで、その温度を感じてみてください。

物語で感じた揺らぎ

物語の終盤、どこか足早に夕闇が過ぎていくような感覚があった。
積み重なってきた時間に対して、最後だけが少し急いでいるようにも思えた。

それぞれの登場人物の人生は丁寧に描かれている。
だからこそ、もう少しだけ触れてほしい人物がいたようにも感じる。

ある人物の言動に、ほんのわずかな違和感が残った。
物語の中で揺れているようにも見えたため、その輪郭の軸をもう少ししっかりと持たせてほしかった。

また、いじめの描写にはどこか現実と距離のある感覚もあったのも事実で、ほんの少しだけ、物語の外へ意識が引き戻されてしまった瞬間であった。

物語の中で出会った言葉

気色ばむ(けしきばむ):怒りや興奮などの感情によって、顔色が変わること。感情が抑えきれず、ふっと表情に滲み出るような様子。

厭世的(えんせいてき):この世を悲観し、人生に希望を見いだせないような心のあり方。どこか世界と距離を置いてしまうような感覚。

読後に残った感覚

その場にぽつんと放りだされたような感覚が残った。

長いあいだ夕闇の中を歩いてきたせいか、目は最後までその暗さに慣れることはなかった。

瞼をはっきりと開くこともできないまま、ただぼんやりと前を見つめている。

夕闇の中を一人さまようような、
言葉にならない空白だけが、静かに心に残っていた。

栞の結び

それは、一人の女性の人生に寄り添う記録でもあり、彼女を取り巻く人々の人生が交差する物語でもあった。

『イノセント・デイズ』は、誰もが胸の奥に抱えている不幸の輪郭を、静かに浮かび上がらせる。

それでも人は、誰かの光を信じてしまう。
真っ暗な闇の中で見つけた光は、ときに眩しすぎる。

だからこそ人は目を細めながも、前を向こうとするのかもしれない。

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