【栞録】何者(朝井リョウ)|盲目の観察者

栞録

作品情報

何者
著者:朝井リョウ
出版社:新潮社
刊行年:2012年
ジャンル:青春小説

物語温度:淡い平熱がゆるやかに続く

※本記事は、物語の核心に触れない範囲で内容に言及しています。まっさらな状態で物語と出会いたい方は、ご注意ください。

章序

自分は決して他人とは違う。
特別な存在であると信じて疑わない人の物語。

他人の成功は妬ましく、失敗はどこか甘い蜜の味がする。

結果だけを見て、だから言わんこっちゃないと後ろ指をさす。
行動を起こさず言葉だけを並べて、高みの見物を決め込みただあざ笑う。

それをまた笑っている人がいることにも気づかずに。

もしかしたら誰もがそうなのかもしれない。

物語に触れて

リアルに描写されているからか、町中で知らない人たちが話していることを盗み聞きしているような感覚があった。
誰かの生活を幽体離脱してそれを俯瞰からみているような不思議な距離感だった。

誰もが持っているような考えが妙にリアルで、没入感というよりも、ただ現実の出来事を見聞きしているようで、小説というよりは誰かの日記を読んでいる感覚に近い。

物語は就活に焦点が当てられているが、それは特別な世界の話ではなく、どこの社会でも起こりうる出来事のように感じられ、誰もが抱えている思想のようなものが、自然な形で落とし込まれていると思った。

読み進めるうちに、こちらが感じていた思いをふと代弁されたような場面があり、どこかすがすがしさもあった。

「自分は分かっていますよ」とでも言いたげに、人を観察しているつもりの登場人物。その描写が妙にリアルで、作者自身の経験や思考がこの物語の中に滲んでいるようにも感じられた。

胸の奥に留まった一文

「頭の中にあるうちは、いつだって、何だって、傑作なんだよな」
「いくらつまらないって叩かれても、他人に点数をつけてもらうこと絶対にやめなかった。」

※印象に残った理由は記載しておりません。
 ぜひ実際に読んで、その温度を感じてみてください。

物語で感じた揺らぎ

いい意味で、これは本当に小説なのだろうかと思う瞬間があった。

作られた物語というより、現実のどこかで起きている出来事をただ見聞きしているような感覚。

それは、呼吸をしているときの感覚に少し似ていた。

読後に残った感覚

憐れみにも似た感情が、ただただ宙を舞っていた。

そういうことでもあり、そうではないのかもしれない。
もしそれを認めることができたのなら、それもまた一つの成長なのだろう。

人の思想というものは幾重にも枝分かれをしており、なかなか同じ場所では交わらない。

栞の結び

それは、身近でも起こりうる現実味を帯びた物語だった。

『何者』は、誰もが心のどこかで抱えている考えをそっと差し出してくる。

最後の主人公は、成長しているようで、そうではないようにも見える。
もしかすると、人の本質というものはそう簡単には変わらないのかもしれない。

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