作品情報
さよならジャバウォック
著者:伊坂幸太郎
出版社:双葉社
刊行年:2025年
ジャンル:ミステリー小説
物語温度:浮遊感のに包まれたまま、夢の奥へと進んでいく
※本記事は、物語の核心に触れない範囲で内容に言及しています。まっさらな状態で物語と出会いたい方は、ご注意ください。
章序
今目の前に映っているものは現実だろうか
そんなことを普段から考えている人は、きっと多くはない。
だけど、もし現実が虚構だったとしたら
人はそれに気づくことができるだろうか
現実と虚構の見分けがつかなかくなった時、信じるものは?
親しい人でさえ疑わしくなる世界
そこに現れたのは救世主か、それとも——
展開される見たことのない世界
さながら、不思議の国に迷い込んだアリスのように
ずっと長い夢を見ていた
物語に触れて
身体の内に、ずっと浮遊感がつきまとっていた。
非日常の先を見せられているような感覚が、物語の最初から続いている。
ページを捲るたびにその感覚は強まり、答えを求めるように読む速度は自然と上がっていった。
本来なら終盤で明かされるような要素が、序盤から静かに提示されている。
物語の流れも丁寧に整えられており、クライマックスに近づくにつれて心に残っていたもやもやが、一本の針でつぶされていくようにほどけていく。
道中に散りばめられた描写は、やがてすべて最後のパーツとなる。
「あれはそういうことだったのか」と気づいた瞬間が、ご褒美のように用意されているのも心地よい。
描写の力も印象的だった。
音楽を演奏する場面では、まるで本当に音が聞こえてくるかのような臨場感がある。
そして何より、この物語には独特の浮遊感が漂っている。
そう、ずっと長い夢の見ているような感覚が。
胸の奥に留まった一文
真面目に、誠実にやろうとするのはいいけれど、それを他人にまで求めはじめると危ないってことだよ。
三一です
何かに取り憑かれているんですか
※印象に残った理由は記載しておりません。
ぜひ実際に読んで、その温度を感じてみてください。
物語で感じた揺らぎ
物語の中で提示される問題は、読者の想像力に委ねられすぎているように感じた。
ある人にとっては大きな危険に見える出来事も、別の人にとってはそうでもないかもしれない。ただ、その余白は創作物を味わう醍醐味でもあるのも確かである。
また、ずっと大切にしているものに気づかないままでいられるのだろうか、という点にはわずかな違和感も残った。
物語の中で出会った言葉
鼻白む(はなじらむ):相手の言葉や振る舞いに、気持ちがすっと冷めてしまうこと
「割れ鍋に綴じ蓋」(われぶたにとじぶた):欠けたところも含めて、不思議と釣り合っている二人の関係を表す言葉
読後に残った感覚
長く漂っていた浮遊感がふっと消え、気づけば柔らかな砂浜の上に着地していたような感覚だった。
栞の結び
終始、もやのような浮遊感に包まれた物語だった。
しかしその中で描かれる人間関係はどこか現実に近く、完全に突き放されることはなかった。
『さよならジャバウォック』は、現実から逃げることができる世界の中で、それでも向き合うべきものを静かに示している。


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